【NY発テック最前線】日本の若者に世界と渡り合える機会を

キーワード: 米国機械学会(ASME)、コロンビア大学 、 世界に誇る日本 、日本の技術、匠の技 、 日本の若いエンジニア、研究費削減、研究開発部門 、 産業のコメ、トランジスタラジオ、テレビ、半導体、ディスプレイ 、工作機械、汎用ロボテックス

– 「なんで日本の学生はみんな大学の机の上で昼間寝てるの?」 –

以前、米国機械学会(ASME)の会合でコロンビア大学の大学院生(フランス人)と話したときのこと。僕が日本人で彼と同じ学科の卒業生と知って親しく話してくれた。どうやら前年度まで日本の某大学院の研究室にいたらしい。そこで日本人の大学院生に疑問に思ったことを聞いたらしく、その時の様子を話してくれた。

彼はその某大学の研究室の日本人学生達に「なんで日本の学生はみんな研究室や教室の机の上で昼間寝てるの?眠いんだったら家に帰って寝たほうがいいんじゃないの?」って聞いたら、彼らは「教授がやってこない昼間に机の上で寝て、夕方教授が来る頃に起きて、教授に良いところを見せるためさ」、と悪気もなくあたかも 自分が効率的で要領のいいことを、コツを教えるように、自慢げに話していたという。

そういう欧米では考えられない摩訶不思議な行動をみてきて、自分はその大学で勉強する価値がないと判断したらしい。そしてその日本の某大学を去ってコロンビア大学に来たらしいのだ。僕はその話を聞いて、その研究室の日本人院生の名誉のためにこう言った 、

「いやそれはたまたまじゃない?それが日本の大学のスタンダードじゃないと思うよ」と。

でも彼は、

「いや他の留学生に聞いたけど他の研究室も概ねそんな感じだった、フランスやアメリカの大学ではありえない」と真剣な表情で僕の目をじっと見て言った。

僕は彼が見た状況は十分想像できるものだった。僕もかつて授業中寝てしまったり、夜遅くまで研究に時間を割いて昼夜逆転したこともある。でも僕が日本の大学で学生をやっていたのは20年も前だし、アメリカに来て約20年になる。いくら何でもそういう大学・大学院の風習(ハードワーク・徹夜などを含む残業)は今の若者には相容れないと思っていた。しかし実際は20年前と大して変わっていない。

日本の若いエンジニアが心配?研究費の削減や研究開発部門が縮小 –

そういうフランス人大学院生の話を聞いて思うのは、 世界の頭脳はそういう見せかけの所や、無駄な残業・徹夜の風習のあるところ集まらないだろうなと。残業して頑張ってますっていうサラリーマンや、夜遅く頑張ってますっていう学生は多くいるが、何のために頑張っているのか、自分のパッションはどこにあるのか自覚していないと、形だけの努力になってしまう。形だけの努力でも美しいと考えてしまう。優秀な人は磁石のように国境を越え世界中から集まってくる。そこで切磋琢磨した経験もなく、見かけだけの努力や処世術で切り抜けれるほど世界は甘くない。ましてや世界の頭脳とは到底太刀打ちできないだろう。さらに不幸なのは、その圧倒的な実力の差を気づかないで社風や学風に身を任せ非効率なことや無駄なことをずっと繰り返すことだ。だから最近「世界に誇る日本」とか「世界が驚いた日本の技術」「日本人にしかできない匠の技」みたいな書籍やTV番組を拝見していると、自画自賛してる暇はないのに、、と心配になってしまう。

日本の科学技術は、トランジスタラジオ・テレビ・半導体・ディスプレイ産業で世界を圧倒して 、特に「半導体は日本の産業のコメ」とまで言われていたが、そんな過去の栄光に一瞬でも浸っていてはいけない。まだ自動車産業があるとの声も聴く。世界のトヨタ、今もすごいし、ハイブリットエンジン・水素自動車でリードしたいのはよくわかるし、工学の観点から見ても素晴らしい。ただ世界はAIと親和性の高い電気自動車に向かっている。また、日本の工作機械はすごいといわれるけど、ハイテク業界は5年もあれば十分ひっくり返される。かつて絶賛されたホンダのアシモやソニーのアイボなどの汎用ロボテックス技術は十分社会に活用されていない一方で、 ボストン・ダイナミックスのスポットやアマゾンの宅配用ドローンなどがすでに実証・実用試験の段階に入っている 。

日本の科学技術や産業界もそうだけど日本のアカデミア業界も僕は心配している。近年のノーベル賞日本人受賞は素晴らしい。でもその栄光がサステナブルに続くことができるのかということを危惧している。日本の大学の研究費の削減や企業の研究開発部門が縮小で未来のある優秀な若者が悲観するんじゃないかと。

特に日本の若いエンジニアや理系の学生が心配だ。彼らに夢を与えられるシステムを政府・民間企業・大学が一体となって日本に作ってほしい。

Dr. マサト・ナカムラ

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