【NYテック最前線】人工知能(AI)がもたらす近未来と過去の革新技術の類似性

キーワード: 人工知能(AI)、革新技術、 エンプロイ・エクスペリエンス(EX}、カスタマー・エクスペリエンス(CX) 、 産業革命、 核エネルギー、 国際熱核融合実験炉 (ITER)、 自動運転システム 、 地球環境学 、 シンギュラリティ

-人間の形をしたAIロボットがあなたの上司・部下になる?-

人工知能(Artificial Intelligence)の出現によって人々の生活は大きく変わるといわれている。果たして人工知能(AI)が人類の知性を上回るとき、我々は知性そのものをAIに依存するようになるのか?もっと言うと、我々は考えることをやめてしまうのか?

近い将来、あなたの上司がAI やロボットになるかもしれないし、部下やチームがAIだったりするかもしれない。つまり、あなたのチームメンバーが、もはや年齢・性別・人種・文化・言葉の違う「人間」ばかりではなく、人間に似た知性(=人間の形をしたAIロボット)も含まれる、そんなチームを率いて仕事する社会がくるのだ。もっと大きな規模の多様性を受け入れる時代がやってくるのかもしれない。

また人工知能によって失われる職や、新たにできる職が出てくるが、そういう職の変化に対応できる従業員の体験も必要になってくる。そういうエンプロイ・エクスペリエンス「従業員体験」(EX)の機会をいかに与えていくかが企業にとって重要になってくるだろう。つまり、AI時代には 従来のカスタマー・エクスペリエンス(CX)だけではなくEXにも同等の力を注ぎ、準備し対応できる企業が生き延びると思う。

– 産業革命以降の技術革新と人工知能 –

かつて 人類は、革新技術によって新たな能力を手にしたことが何度かあった。歴史を紐解いてみれは、産業革命の立役者になったジェームス・ワットが蒸気機関を改良したとき、人類は馬や牛ではなく、食事も休息もいらない人工の「労働力」を手に入れた。人間の腕力や脚力をはるかに超えた効率の良い蒸気機関は、今まで使っていた自然エネルギー(風車や水車など)よりも強靭で季節や天候に左右されない力を生み出した。その後、アルフレッド・ノーベルによって発明された「ダイナマイト」によって、破壊・崩壊(もしくは解体)作業が含まれる土木現場の重労働からも人類は解放された。そして20世紀に入り、究極のエネルギーと言われた原子力が利用可能になった。原子力は今までの木炭から石炭・石油に代わる排気ガスがほとんど出ない夢のエネルギーとして使われるようになる。このウランやプルトニウムから核分裂で得られるエネルギーは、人間の身体が生み出す動力・エネルギーをはるかに上回るもので、多くの国でエネルギー供給のポートフォリオに組み込まれていった。そして現在、人類は核エネルギーの技術を発展させた核融合炉(太陽が熱を放出するする原理と同じもの、反応炉に小さな太陽をつくるようなもの)の実現に挑戦している(例えばITER:国際熱核融合実験炉などの取り組み )。

しかし、これらの技術革新は決して良い面ばかりというわけではない。産業革命時代の初期には、蒸気機関による蒸気爆破による死亡事故が多発したり、火薬が発明されてダイナマイトが人殺しや戦争に使われたりした。20世紀半ばには核兵器が開発され、冷戦時には核兵器が拡散することは人類の危機との認識が広がった。このように、人類はテクノロジーへ無条件の賛辞を贈ったわけではないく、革新的なテクノロジーはいつも人類をいい面でも悪い面でも人々の生活に影響を与え続けた。つまり、社会をドラスティックに変えていく革新テクノロジーは、いつも人類にとって諸刃の剣なのだ。

– 人工知能がもたらす社会的問題点 –

そういう我々人類の歴史を鑑みると、人工知能の出現もまた、良き影響を与える面と人々を不安にさせる面があるし、そこに着目せざるを得ない。知的単純労働から人類を開放するのはAIができることだろう。しかし人類の知能を超えることが可能となった時、我々はAIと共存できるのだろうか?私は楽観的である。AI利用のいい面が圧倒的に大きいからだ。

しかしAI運用を実際の社会に適用するといい面だけではない。MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏は人が交通事故で亡くなるのを最小限にするのを第一に考えるAI付き自動運転システムの問題点を指摘していた。そのAI自動車は犠牲になる歩行人(例えば他人)を最小限にするために乗車している搭乗者(例えば家族)も犠牲にする。もしそんなAI自動車があったとしたら、はたして人々はそれを購入するだろうか?と。

一連の騒動について考えていたとき、わたしはハーヴァード大学の心理学教授ジョシュア・グリーンが提示した問題に触発されて、メディアラボのScalable Cooperation Groupが実施したある研究を思い出した。
グリーンは自動運転システムについて、社会の大半が事故の際に多数の歩行者を救うにはクルマの搭乗者を犠牲にするといった人工知能(AI)の合理的な判断を支持する一方で、自分はそんなクルマは買わないと考えているという矛盾を指摘したのだ。

伊藤穣一
「学校の授業時間再編を巡る騒動から得た、人工知能にまつわる重要な視点」より引用
https://wired.jp/2019/02/10/joi-ito-ai-and-bus-routes/

実は、この自動運転システムの問題は私の専門である地球環境学にもが当てはまる。例えば、「自分の庭はきれいにしたいけどそれ以外の土地の土壌はどうなってもいい。」もしくは「自分の食器はきれいに洗いたいけど、キッチンから来る廃水が川に流れるのは無関心」などの個人の考え方・ライフスタイルが瞬く間に社会全体に浸透し、それが大きな環境負荷として 地球全体に 大きくのしかかってくるのだ。90年代のオゾン層破壊や近年の酸性雨や地球温暖化、最近の問題となっているマイクロプラスチック汚染などは良い例だ。このことから、AIによる自動運転システム問題は、個人の考え方から 社会全体に、ひいては地球規模に発展してく過程で考えなくてはならない重要な問題だということを示唆している。 つまり、 量子力学 とニュートン力学(古典力学)では支配している方程式が異なっているように、ミクロ(微視的)的な視点ととマクロ(巨視的)的なものとでは大きく違う。そして時に矛盾した振る舞いが観測される。また、ミクロ経済とマクロ経済でも個人消費の動向や国家レベルの経済が矛盾なくつながっているわけではない。そのことを勘案すると、地球環境保全やその他の地球規模の運営にしても、AI時代では特にこのような矛盾し得うる問題がより浮き彫りになるのだ。

シンギュラリティといわれる人工知能が人類の知性を超える「特異点」に達する過程で、冷戦や他の潜在的核戦争を乗り越えるのと同じような苦しみが待っている私は考えている。また、先に挙げたオゾン層破壊、酸性雨、地球温暖化などの地球環境問題を解決する取り組みが、人工知能による意思決定や判断過程を社会に適合させるヒントになる可能性がある。いずれにしても、この人工知能という優れた知性と共存していく社会を今のうちから構築していかなくてはならない。 なぜなら人工知能は、産業革命や核エネルギー以上に、社会の構造を変えるほどの変化をもたらすかもしれないのだ。

Dr.マサト・ナカムラ

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