【NY発テック最前線】震える足で一歩踏み出せ!-皆が感動する すごいプロジェクトとは?-

キーワード: ニューヨーク 、STEM、教育、エンジニア 、ニューヨーク市立大学、New York City Tech、黒澤明 、生きる、震える足 、マイノリティ教育 、すごいプロジェクト

ー えら呼吸から肺呼吸に進化させ、見果てぬ大陸に飛び出そう!-

海に住んでいる魚は海の中しか知らない。そこは大海原かもしれないし、大きな湖かもしれない。彼ら魚はえら呼吸ができるので水の中で一生を暮らすのが当たり前だ。しかしその海は汚染されて数年で住めなくなるかもしれないし、その湖はエサのプランクトンも減っていずれ干上がってしまうかもしれない。そうあなたは気づいた。今こそ陸上に飛びだし自分の体をえら呼吸から肺呼吸に、つまり魚類から両生類に進化させるときが来たのだ。えら呼吸だから陸に上がるのは本当に苦しい。苦しくてもがいてるうちに灼熱の太陽にさらされ、干からびてしまうかもしれない。

人は誰でもやった事のないことを始めようとチャレンジしたとき足がすくむものだ。自分の足が震えるほど恐怖を感じ、逃げ出しくなるかもしれない。だが震えるその自分の足で、最初の一歩を踏まないといけない。その一歩がないと感動のプロジェクトが始まらないのだ。あなたのその感動物語が始まらないのだ(観客は満員なのに)。少なくとも長い生物の進化の過程の中で、一部の魚は浅瀬に来て陸上を目指した。いや目指したわけじゃなく、そうせざるを得なかったかもしれない。でもそんな最初のクレイジーな魚が陸に上がったおかげで地球上に両生類が産まれた。そしてそれは爬虫類、鳥類、哺乳類と続く生物の壮大な進化の始まりになったのだ。

– 教え子(卒業生)のエンジニアとしての 生れ出づる悩み –

先日僕の初期の教え子が僕の大学(New York City Tech)のオフィスを訪ねてきた。卒業後ニューヨーク市内のエンジニアリングカンパニーに就職したのだが、ちょっと相談に乗ってほしいとのことだった。授業の合間だったので終わるまで待ってもらい話を聞いてみたら、彼は「完全に自分のスキル不足で仕事が全くついていかない。チーム内のほかのエンジニアに聞けば教えてくれるが、あまりにも聞くと疎んじがられ能力がないとレッテルを張られるかもしれない。扱っている装置もデータシートしかなくどのように動くのかもわからない。どうしたらいいか?」との相談内容を話してくれた。「自分で勉強しようとしても特殊な装置なので情報がない。ネットで調べても何も出てこない。こんなポンプの装置は大学でも習わなかった分野だ。」「周りのエンジニアは全員白人で、マイノリティーは僕一人、プレッシャーと孤独を感じる。」ヒスパニックの彼は続けた。「僕の家族で大学の教育を受けた人は僕だけで、アドバイスをくれる親せきもいない。」「それからMBAを取りたいけど取るにしても学生ローンが怖くて踏ん切りがつかないし、、、。」ー。

僕は言った「君は間違っている。君が本当に優秀なエンジニアだったら誰も教えてくれなくても装置を一人で学んでモノにするだろう。マニュアルがないからわからない、データシートじゃ数値だけで仕組みがわからないって、子供か?City Techの学生だった頃はそれでよかったのかもしれない。周りのプロフェッサーがいろいろ教えてくれたからね。でも会社に入ったら一人で学ぶんだよ。同僚のせいにするな。自分が受けた教育のせいにするな。周りが白人だからそれがどうした?家族に大卒がいないってそんなの百も承知だろ?家族のせいにする気か?君がファミリー初のことを切り開いていくんだ。」マイノリティとしてニューヨークで育った彼は、眼を真っ赤にして僕をじっと見つめ、相づちを打っていた。「君は超優秀なエンジニアだと僕は信じている。君は自分がすごいってことを信じていないのか?信じてるだろ?もし君が本当に優秀なエンジニアならそれを一人で証明しなきゃならない。装置のデータシートがあるだけでもましだ。君は同僚エンジニアをすぐ追い越せるだろ自身はあるだろ?」「怖くて不安なのはとてもわかる。君の足は不安と恐怖で震えてるんだ。その君の足が震えているのを認めて一歩踏み出せ。そこに会社の不満や家族の出生、マイノリティーだというのは関係ない。自分の受けた教育も関係ない。」「それからローンが怖いってなんだよ?City Techは低所得者用のサポートがあって学費免除だったろうが、そもそも教育はタダじゃない。教育という自己投資を躊躇するならやめたほうがいい。MBAに価値があると思うなら行けばいいし高いと思うならやめろ、それだけ。でも怖いからやめるっていうのチャレンジの本質がわかってない。チャレンジしてる人はみんな足ガクガクなんだよ」ー。「君には選択肢が二つある。君の足がガクガクなのを認めて一流エンジニアの道をまい進するか、それとも、足ガクガクを認めるのが恥ずかしいから辞めちゃうか。」ー。涙が溜まった彼の目を見ていると彼の苦悩が伝わってきて、20代のころ東京で同じように悩んでいた自分を突然思い出した。そして目の前に座っている彼と20年前の自分が重なり、だんだん僕の視界が滲んできた。見られちゃまずいと思い彼に背を向けコンピューターの画面に目を走らせた。そして、わざとらしく忙しいふりをしながら、彼をオフィスから追い出すように話を切り上げた。「また相談に来ていいですか」「いいよ」ー。彼が去っていく際、見送った彼の背中は学生だった頃よりもはるかに大きく強靭に見えた。実のところ、僕は彼を心配していない。なぜなら、彼がパッションをもって仕事に打ち込んでいるからこそ、こういう悩みが出ているのを知っているからだ。彼もまた一流のエンジニアになるための壮大な自己実現のプロジェクトのを遂行しているのだ。えら呼吸をやめ肺呼吸を獲得するために。

– あなたが 寝食を忘れて熱中できるものは何ですか? –

戦後間もない1952年に公開された 黒澤明監督の 「生きる」(いきる)は、凡人の主人公が魂のプロジェクトを遂行し、その成果物を残してこの世を去った物語だ。 市役所の市民課長で ただハンコを押すだけの毎日で無気力な彼が、胃がんで余命わずかだということに気付く。そして死を嘆いて悩む中 「まだできることはある」と気づき彼は仕事にまい進する。彼ができること、魂のプロジェクトとは子供のために小さな公園を作ることだ。 頭の固い役所幹部に何度も説明し、ヤクザの脅迫を受けながら、ついに公園を完成させ、雪の夜にその公園のブランコの上で鼻歌を歌いながら息を引き取るー。子供のために、その親のために、市民のために命懸けで作った小さな公園。すごいじゃないか。僕はこの主人公の懸命な思いが好きだ。この主人公のように余命半年の死と直面しなくても、あなたは魂の揺さぶる感動プロジェクトを作ることができると僕は信じているのだ。

あなたが 寝食を忘れて熱中できるものは何ですか? 10年若かったら何をしたいですか? 心の底から出る社会不満はなんですか? 涙を流すほど悔しかったことは何ですか? 生涯心血を注いでやりたいものは何ですか? 自分と同じ境遇の人を手助けしたいと思いますか? こういう本質にかかわることを問い続けることによって皆が感動するすごいプロジェクトが生まれる。そしてそれが伝説のプロジェクトとして語り継がれる。あなたの成し遂げたいプロジェクトは人類を進化させるすごいもの。少なくとも世の中を良くする大事なものである(自分の思いはささやかかだと侮ってはいけない) 。

若い心を持った者よ、古い人たちが作った歪んだ社会を憂いる前に、足がすくむようなすごいことを見つけてみよう。 そして怖がっている自分を認めて、 その震える足で、一歩踏み出せ。その弱々しい一歩があなたの宝物になる。一生語り継がれる宝物になる。

居心地の良い海の中では、あなたは一生魚のままだ。あなたが目指す陸上は、日本じゃないかもしれないし、ちょっと住んでみたいような海外かもしれないし、こうなればいいなという世の中かもしれない。その理想の陸地、大陸を大いに語ってほしい。そして一歩踏み出しその大陸で生き延びて欲しい。その勇気が、その情熱がいっぱい詰まっているあなたの勇気が、皆が感動するあなたのプロジェクトそのものなんだ。

Dr. マサト・ナカムラ

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