【テック大学での日常】三つの大陸を駆け巡れ!(レジュメ・ワークショップ予告編6)

ある日の午後−

学生「プロフェッサー・ナカムラ!今いいですか?見てください僕らが造ったロボットです!シニア・デザインの授業のファイナル・プロジェクトで完成させたんですよ」

僕「どれどれ、ふーむ。。なかなかの力作だね。このアームのパーツは自分達でデザインしたの?」

学生「はいSolidWorks(3D CAD)でデザインして、 ウォーター・ジェット・カッターで加工しました」

僕「なかなかやるじゃないか」

学生「後は卒業を待つだけです」

僕「シニアデザインは機械工学科の最後のクラスだもんね。卒業後は何したいの?」

学生「迷ってるんです」

「 卒業後は何したいの?」 「迷ってるんです」

僕「迷ってる?」

学生「はい、NYで就職するか大学院の修士課程に行こうか。でも、 調べたらCity College(ニューヨーク市立大学[CUNY]のフラッグシップ[旗艦]校)の機械工学の修士課程にBTech(Bachelor of Technology)の学士持ちを受け入れないらしくて」

僕「同じCUNYのカレッジなのにまあ酷な話だよね、学生側からしたら 」

学生「どうしてCity TechのBTechは差別さるんですか?」

僕「差別ではないんだけどね。BTechで取る総単位数はBSと同じだけど、BSと違って一般教養科目が少ないんだ。だからCalculus III や線形代数など取らないかわりに、1年生から機械工学の授業があってハンズオンスキルをやる」

学生「でもコロンビア大学やニューヨーク大学(NYU)の修士プログラムは、 僕達City Techの卒業生を受け入れてMaster of Science (MS)を授与してくれますよ」

テクノロジーは残念ながらアカデミアでは地位が低いんだよ

僕「テクノロジーは残念ながらアカデミアでは地位が低いんだよ。でもね、僕もCity Techにファカルティとして働き始めたときにBTechのカリキュラムを見てびっくりしたんだ。」

学生「何にびっくりしたんですか?」

僕「いろいろだよ、例えば君達が取った必須項目の物理学IとIIはアルジェブラ・ベースといって代数ベースなんだ。普通の大学はカルキュラス・ベースといって微積分を使って物理を教えるんだ。代数ベースは微積分を知らなくてもいい」

学生「でも僕等は微積分IもIIも、それから微分方程式も必須でやりました」

僕「うん、3, 4年生でね。でも普通の大学の機械工学科は微積分と微分方程式は前半の1, 2年生で終わる。君たちのBTechの学生は学部後半に習うかわりに、前半にテクニカルなハンズオンをみっちりやる。一般の大学と違うカリキュラムで数学が苦手な学生にも門戸を広げて技術者になってもらうためだよ」

門戸を広げて技術者になってもらうためだよ

学生「だからといって、City Techの学位: BTechがCity Collegeで認められないというのは納得がいかないです。うちのBTechプログラムはABETでもアクレディト(認証評価)されてるんですよね?」

僕「よく知ってるね。うん、もちろん。ABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)に アクレディトされない理系の非認証大学は、アメリカではいわゆるディプロマ・ミルといって学位記を輪転機で大量印刷して売っているモグリの大学だと思われるんだ。うち(City Tech)の学科はもちろんABETからアクレディトされてるから正規の学位だから心配しなくていい。ただ知ってもらいたいのは、」

学生「なんでしょう?」

僕「うちの学科はMechanical Engineering Technologyという名前でEngieering Technologyをやっているんだよ」

学生「Engineering と Engineering Technology は違うのですか?」

Engineering と Engineering Technology は違うのですか?

僕「さっき言ったようにカリキュラムが少し違う。だから名前もちょっと違うってことだと思うよ」

学生「なんかカリキュラムと名前が違うだけで、City Collegeのマスターを受けられないっていうのは嫌だなー。最初からCity CollegeでBS取ればよかったのかなと思います。」

僕「City Collegeだけじゃないよ。NY市職員の募集でいくつかの技術職もBTechの学生は不可、BS卒のみっていうのがあるらしい。」

学生「ますます後悔してきました。City TechのBTechなんて取るんじゃなかった。」

僕「City Techは職業訓練校みたいな役割があるからね。本当にBSにこだわる学生には、2年生の時にCity TechからCity Collegeにトランスファー(転校)することを僕は勧めてるよ。君はもう来週卒業だろ(笑)?でもね、 ちょっと聞いてほしいんだ」

でもね、 ちょっと聞いてほしいんだ

学生「。。はい」

僕「City CollegeとCity Tech、BSとBTech、理論中心と実践中心、学問と産業。どれも一見似ているけど、アプローチが違うんだ。例えばね、多くの人は勉強してから実社会に出て企業に就職したり、理論やセオリーから入って実践したりするよね」

学生「。。ええ」

僕「でもそれが逆でもいいと思わない?実社会に出てから必要性を感じて学校にいったり、実践してから理論を勉強したり」

学生「どういう意味ですか?」

大人になるにつれみんな理論から入ろうとするんだ

僕「例えば初めて水泳をやるとき、その前に勉強してもいい。理論を先にやって水中で注意すること覚えて、流体力学を学んでからプールに入る。でも、City Techのやり方は、最初に学生をプールに落とす(笑)。そしてプールで遊んでから理論を学ぶんだ。どうやったら耳に入った水を抜けるのか、どうして体は浮くのか、どうやったらもっと早く泳げるのか、とかね。」

学生「確かに子供のとき、まずプールで遊びますよね。理論なんてやったかな?」

僕「そうなんだよ。子供のときはいつも実践が先なんだ。理論なんて二の次だ。でも大人になるにつれみんな理論から入ろうとするんだ。」

学生「どうしてなんですかね?」

君が30年後も思い出すような素晴らしいプロジェクト

僕「多分、大人はみんな失敗したくないって思うんじゃない?体を動かして実践するのが嫌になるんだよ。カッコ悪いとか、スマートじゃないとか無意識に思うかもね」

学生「。。確かに。幼少の頃は何やるんでも楽しかったのに。いつからだろう机上の理論ばかりに時間を取られるようになったのは。。」

僕「まあ、君の場合は、このロボットを見る限り、実践をよくこなし、君が30年後も思い出すような素晴らしいプロジェクトをCity Techでやり遂げたからいいじゃない?」

学生「そうですね、ありがとうございます。」

どっちが先か後かは関係ない、やったかやらないかだけだ

僕「それからね、多くの人は勉強してから企業に就職したりするけど、逆でもいいと思うんだ。高卒で就職して社会でいろいろ実践してからCity Techやコミュニティーカレッジ(短大)に来て足りないと思ったところを勉強してもいい。もっというと、中卒ですぐ働いて、ハイスクール・ディプロマ(高卒の卒業証書)がなくてもGED(日本の大検のようなもの)をとって大学に来る人もアメリカにはたくさんいる。そういう人たちの情熱は素晴らしいと思うんだ。家が貧しくて学校に行くお金がなかったかもしれない。たまたま覚えるのがスローで学校の先生に、 ダメ学生の烙印を押され、高校をドロップアウトしたのかもしれない。そんな些細な理由で、肩身の狭い思いをしたかもしれない。たまたま実践が先で理論や教科書の勉強が後になったんだ」

学生「はい」

僕「でもどっちが先か後かは関係ない、やったかやらないかだけだ。僕に言わせれば両方大事だし、そのことで肩身の狭い思いをする必要は全くない。少なくとも僕はそんな些細なことで人を区別してみたり評価したりすることはしないよ」

学生「。。はい」

僕「だからBSだとかBTechだからとかは学び方の違いだけ。胸を張ってBTechの学位を修了したんだって、堂々と自分に誇りを持って欲しい」

学生「はい!」

一つだけ、卒業する君に伝えたい事があるんだ

僕「なんか長い立ち話になっちゃったけど、最後にもう一つだけ、卒業する君に伝えたい事があるんだ。」

学生「はい。何ですか?」

僕「世の中はね、特にここアメリカは、ものすごい格差社会で一見同じように見えるものもすごい分断や差があるんだ。例えばね、病院に行くでしょ?病院の人ははみんな白衣着てるから、みな同じように見えるけど、受付のアドミンスタッフ、看護師、医療機器を扱う技師、医師って分かれているんだ。みんな君の健康を守るすごい人たち、でも役割が違う。腕がいいからといって技師がお医者さんみたいに判断下してはいけないし、逆に看護師より注射が下手なお医者さんもいるかもしれない」

学生「そうですよね」

僕「医療界の現実はそうなんだけど、実は工業界も同じで、テクニシャン(テクニカルスタップ)とエンジニアってすごい差があるんだよ。役割も給料も。テクニシャンは下に見られてエンジニアをサポートする役なんだ。現状は残念ながらTechnologyとEngineeringには差が存在する」

学生「やっぱりBTechってBSより不利な気がしてきました」

僕「でもね、昨今のIT産業の発展のおかげでプログラマーやコードを書くだけのテクニシャンもエンジニアとして扱われたりであまり差もなくなってきている分野もあるんだ。」

学生「でもメカの業界ではまだまだ分断しているんですよね?」

Technologyを扱うテクニシャンとEngineeringを扱うエンジニア

僕「そうだね、まだそうかもね。Technologyを扱うテクニシャンとEngineeringを扱うエンジニア、まだ分断されてるかな。ところで君が来週授与される学士の名称は?」

学生「だからBTechですよ」

僕「正式名称だよ」

学生「え?」

僕「Bachelor of Technology in Mechanical Engeering Technologyでしょ?」

学生「はい。。??」

僕「そう、君はメカのEngineering Technologyを修める。来週BTechを授与される君はEngineering Technologistになるんだよ。」

学生「???」

分断された世界を自由に行き来できる稀有な存在

僕「その意味は、エンジニアリングもわかる技術者で、テクニシャンみたいに手も動かせれるエンジニアになるんだ!!つまり君は、 両方の分断された世界を自由に行き来できる稀有な存在になるんだよ。家では家族と何語で話すの?」

学生「え?アラビア語ですけど。。」

僕「じゃあ君は英語とアラビア語のバイリンガルなんだね。工業界でも君はテクニシャンと話す言語とエンジニアが使う言語を駆使できるバイリンガルなんだよ」

僕「これってすごいことじゃない?」

学生「。。。(じっと僕を見ている)。。」

僕は話を続けた ー 有名校卒 のエリートたちは一つの世界にしか住んでいない

僕「Ivy・トップスクール・有名校卒のエリートたちは一つの世界(エンジニアリング)にしか住んでいない。彼らの特徴はエスタブリッシュメント気取りで出世と他人よりいい給料をもらうことしか考えていない」

学生「そうなんですか?」

僕「そうなんだ。他人とマウントの取り合いをしてどっちが頭がいいか競ってるんだ。そして、彼らはもう一つの素晴らしい世界(テクノロジー)をちょっと下に見ているかもしれない。自分達にハンズオンスキルがあまりないので、テクニシャンを見つけると何かと命令する」

学生「ひどい人たちだ」

僕「ひどくはない。いい悪いは別として、それが彼らの世界の特徴だってことなんだ。」

学生「なんかいやだな」

どこの世界に住むかは個人の自由

僕「どこの世界に住むかは個人の自由だよ。一方で、テクニシャンや技師がいるテクノロジーの世界は、できるかできないかの世界。何かを作るために駆使できるテクニックがもつ人が強い」

学生「テクノロジーの世界のほうがよさげですね。」

僕「でも、この世界は、給料が安いとか、労働環境が悪いとか、絶えず不満を言っている人が多い。他のことを学ぼうとせず自分のテクニックしか信用しない職人気質の人が多いのかもしれない」

学生「なんかどっちもどっちですね」

僕「そうなんだよ。エンジニアが住む世界も、テクニシャンが住む世界も、完璧ではなくてどちらかの足りない部分をうまく補っているんだ。それなのにお互い交流が驚くほど少なく分断されている。」

学生「どっちの世界に住もうかなあ」

僕「両方だよ」

わくわくするような冒険

僕「君は“バイリンガル”だから両方の世界に住むといいよ。ただ、そうすると片方の世界では異質にみられ、結局両方の世界で”外国人”扱いされるかもしれない。変な差別も受けるかもしれない。でもそういう差別に屈することなく、二つの分断された大陸を自由に行き来し思いっきり大冒険して欲しいんだ」

学生「二つの大陸、うわーわくわくするような冒険ですね」

僕「でしょー?」

学生「じゃあ先生も僕らと同じ“バイリンガル”だからすごい大冒険してるんですか?」

僕「いいや。。。僕は”バイリンガル”ではないんだよ。。」

学生「ええーー。こんなに話しといて自分は違うんですか(笑)?」

僕「ははは、バイリンガルではない(笑)」

学生「なーんだ(笑)」

Doctor of Engineering Science
『PhD選ばなかったの?なんかEngScDってダサいね?』

僕「でもね、説明させてよ。ほらあそこの僕のオフィスのネームプレート、何て書いてあるかというと。。」

学生「Masato. R. Nakamura, Eng.Sc.D.って先生の名前?」

僕「うん。Eng.Sc.D.って書いてあるでしょ?あれ僕の博士号のタイトル Doctor of Engineering Science って意味なんだ」

学生「Doctor of Engineering Science..聞き慣れない博士号ですね、PhDとは違うのですか?」

僕「授与しているスクールが違うから名前が違うんだ。僕はね、最初PhDが欲しいからNYきて留学したんだ。でも僕の大学のエンジニアリングスクールは伝統的にEngScDを発行していてね」

学生「へえー」

僕「工学部の学生はPhDかEngScDを選べるようになっているんだ。で、僕は地球環境工学科っていうアメリカで一番古い鉱山学校が前身の学科の学生だったから伝統的なEngScDを選んだんだ。『PhD選ばなかったの?なんかEngScDってダサいね?』ってほかの学科の同期からからかわれたよ」

学生「ははは」

僕「そのダサいEngScDって、卒業後だんだん僕のアイデンティティに影響するようになったんだよね。」

テクノロジー、エンジニアリング、サイエンスの 3つの大陸

学生「へえーどうしてですかね?」

僕「Doctor of Engineering Scienceていう博士号を持って僕はEngineering Scientistなんだって自覚したんだよ」

学生「技術科学者?なんか、 聞き慣れないですよね。普通エンジニアか科学者じゃないですか?エンジニアリング・サイエンティストって。。なんか、、ダサ。。」

僕「素直に感想を言ってくれてありがとう。。」

学生「でも、それがどうしたっていうか So what?なんですが。。あっわかりました!」

僕「わかった?」

学生「つまり、 先生はエンジニア兼サイエンティストで2つの世界の住民だってことですか?」

僕「そのとおり!もっと言うと、僕はテクノロジー、エンジニアリング、サイエンスの3つの大陸に住んで三か国語を話す”トリリンガル”なんだ。僕は自分の研究の地球環境学でも、地球環境科学、地球環境工学そして環境技術(クリーン・テック)もやる」

おのおのの世界で心無い人から差別や偏見でバカにされたりいじめられたり・・ そんなの百も承知さ。

僕「地球温暖化をラボで研究したり、砂漠に行ってソーラーパネルを設置したり、未開のジャングルにダムを建設したり、工事現場にも行くし。環境市民グループと対話したりもする。そしてCity Techで君達に授業したり一緒に研究したりしている。」

学生「三つの大陸かあー、なんかいいなあー」

僕「そう3つの大陸、 テクノロジー(テクニシャンが住む世界) エンジニアリング(エンジニアが住む世界) サイエンス(科学者が住む世界) に同時に住むんだ。おのおのの世界で心無い人から差別や偏見でバカにされたりいじめられたりする。はっきりいって僕は変人扱いされているかも。でも、 そんなの百も承知さ。一か国語しかしゃべれない“モノリンガル”よりはるかにましだと思って、僕はこの三つの大陸で生き抜こうともがいているんだよ」

君は2つの大陸の住民。両方同時にやれ!!

学生「へえー参考になります」

僕「だから君もBTechが不利だとかEngineering Technologyが他と違うと嘆く前に、両方の世界で一流をめざせ!」

学生「はい!頑張ります!で最初の質問ですが」

僕「ああ、迷ってる話?NYで就職するか大学院の修士課程に行こうかってやつ?」

学生「どう思います?」

僕「わかるでしょ?」

学生「なんとなく想像つきます」

僕「君は2つの大陸の住民!両方同時にやれ!!」

学生「そう来ると思いました!!」

状況に合わせてフルタイムとパートタイムをスイッチすればいい

僕「フルタイムの仕事が見つかったらパートタイムの学生をやり、大学院が忙しくなったら、仕事をパートタイムにする。状況に合わせてフルタイムとパートタイムをスイッチすればいい」

学生「忙しくなりそうですぅ」

僕「そうだよ。2つの大陸を行き来できる能力を得るにはこれしかない。そして、 いつかサイエンスも目指して第三の大陸も駆け巡るんだー!」

学生「そうなれたらなと思います!!」

僕「卒業おめでとう!」

学生「大学院入学の推薦状書いてもらえますか?」

僕「もちろん」

学生「レジュメも見てください」

僕「えー君もか?もうー、来週ワークショップやるから絶対来てくれー」

学生「はーい」

これが僕の学生のためのNYでのエンジニアの就職活動を解説する【レジュメ・ワークショップ】
を開催した理由その6

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